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画像コラム・画検新聞

外観検査のニューノーマル

大きな時代の転換によりわれら製造業も大きな試練に晒されている。これを契機に様々な変革が促され、さらにはその根本的な"あり方"についてさえ議論が活発となった。だが、その議論の最中であっても、製造ラインは動き続けていた。製造現場では人と人、人と物との物理的接触を減らしながら、いかに生産ラインの稼働を維持、管理するかに腐心した。この歴史的な混乱期にあって、納期や数量における猶予はあったとしても、品質の低下が許容されることはないからだ。そして不本意なことに、再び新たな感染症が世界を襲う可能性も想定しなくてはならない。しかも、発生してから対応を始めるのではもう遅いのだ。だからこそ今、工場の無人化・省人化は推進すべき事案であり、具体的な方策を取り入れるには最適な好機と呼べるのではないだろうか。この解決策として、おそらく誰の脳裏にも真っ先によぎったのは『遠隔操作』であろう。今号ではこれから不可欠となることが確実視されるこの技術手法について、現状における課題からその可能性を見る。さらに、ここから輪郭が見えつつある「ニューノーマル」について予測・考察したい。

「ニューノーマル」について予測・考察

その1:リモート稼働/管理された自動検査で工程単位の省人化進む

工場の完全無人化、リモート管理化、という話題そのものは、何も目新しいものとは言えないであろう。同時に実現可能性についても議論されており、「すぐではないが、いつかは可能」という認識も共通のものと言える。「可能」という意見を後押しするものとして、先端技術の開発が挙げられる。確かに、AI を導入したビッグデータの分析、VR(仮想現実)搭載の多関節ロボットなど、"人に替わる"技術に関するニュースが目に触れる機会は多くなった。その一方で、外出自粛や自宅待機が求められていた環境下にあって、この国の就業者の 15.8%、1063 万人と最大を占める*製造業の企業では、多くの人が出勤を余儀なくされていたというのもまたひとつの事実である。
当紙が行なった聞き取り調査によると、リモートワークができなかった要因は大きく2つに分けられる。
ひとつは、「機器が大きく会社や工場から持ち出せない(男性技術職・20 代)」、「保全に修繕、それに段取り替えなど、機器調整は必ず人が見て手を下さないと完了しない(男性技術職・40 代)」などといった物理的な制約によるもの。もうひとつは、「商談時には取引先の担当者の顔を直接見ながらでないと話が弾まないし、新規案件の場合は特に相互に信頼関係を築くのは難しい(男性営業職・40 代)」、「検査員である以上出勤は義務(男性・20 代)」などのように、慣習に起因するものである。

以上のような製造現場の状況を鑑みると、完全無人化とはまだ夢の話である。また、FA 化の流れから製造ライン全体における省人化はある程度進んでいる一方で、検査工程においては依然、人の目に頼る場面が多く見受けられる。だが自動化といっても、これは何も熟練の検査員との完全なる代替と考える必要はなく、例えば有無や方向判別などの簡単な工程だけを画像検査で自動・無人化し、後工程における選別の材料とするなどの用途でも充分に有効となろう。この考え方は、リモート管理を行う際でも同様である。ライン単位や装置単位であっても導入する意義はあり、作業効率、省人化、そしてコスト、どの要素にとっても価値のある、効果的な投資となりえよう。
*2019 年、総務省「労働力調査」による

その2:進む生産拠点の再配置

以前から「チャイナ・プラスワン」などと危機感をもって話題となっているが、生産拠点の国内回帰、もしくは「タイからベトナムへ」のような、別の国への移設の流れはさらに加速する。今後はこれに加え、「感染症対策・医療制度が進んだ国・地域」のような条件も加わることが予想される。
この際、ラインの移設作業には当然多くの人手が必要ながら、自動検査の導入さえ済んでいれば、再稼働が始まっても移設前と同じ検査環境が再現されることとなるのは、ユーザーのメリットとして大きいだろう。

その3:より顕著になる「目視から自動」の流れ

「無人化・省人化」に昨今のリモート需要が加わり、目視から自動化への置き換え需要が低下することはない。前述のように、熟練の検査員が持つ能力全ての代替と考えるのではなく、実現が容易な箇所から部分的に、段階的に自動検査を導入することがより現実的である。一般的に、自動化への置き換えに踏み切る際の目安として、日本では検査員6ヶ月分新興国では3ヶ月分の人件費を考慮すると言われている。

検査員の人件費 × ○ヶ月 = 自動検査

その4:こんなところで画像検査!?

コネクタやプレス品など電子部品や、樹脂成型品に半導体など、多くの工業製品の製造現場では、画像処理による自動検査はもう必須の工程となった。近年では、画像処理検査への一般認知度が上昇したことと、画像処理技術の発達により、例えば医薬品(錠剤や注射針、湿布など)に日用品(ペットボトルの蓋やパッケージなど)、加工食品、さらには卵のような一般的な工業製品以外の対象でも活用される広がりを見せている。今後、さらなる技術の発達で、思いもよらぬ意外な所に画像処理検査が導入されるようになるだろう。

検査工程におけるリモート管理の あるべき姿" とは

現在の製造現場を鑑みると、「完全無人化/リモート化」への道のりはまだ長く険しい。そこで、こうした理想へといきなり到達しようとするのではなく、まずは現実的な対処方法をひとつずつ進めていくことを推奨したい。具体的には、「省人化」を想定し、多少の機能追加を段階的に導入していくことだ。

例えばこんな方法

「稼働中の複数の生産ラインから収集された画像処理検査データを、本社にある管理者の PC へと瞬時に転送し、集約された生産情報の進行をライブで監視。また、吸い上げられたデータから機器の不具合などが発見された際、リモート指示で生産ラインを止め、情報共有された現場担当者が問題を特定。対処が施された後、ラインが再開」

であれば、実現へのハードルは高くないのではないだろうか。しかしながら、このような「リモート化」を実践する上で、懸案としてまず挙げられるのが、社内のネットワーク体制であろう。セキュリティの問題に関しては各社において当然のように考慮される部分だが、加えてここには、長期的な視座ではより重要度の高い、運用体制についての考慮も含まれなくてはならない。収集したデータを誰が、どう扱うのか。そして、蓄積されたデータを活用すれば何ができて、その中で何を行いたいのか。さらに、社内において部門を超越した協力関係をいかに築けるか。表面的な「リモート化」を導入する以前に克服しなくてはならない、より根本的な課題がここで露見する。検査工程に限らず「省人化」という主題に沿って言えば、例えば一部企業が成功した夜間無人操業のように、従業員負担の軽減と増生産を達成できるという、有効な手段も見えつつある。リモート化・省人化に関するアイデアは生産性に直結する問題。今後の製造業を左右する大きなトレンドとして期待する。

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